厚労省の派遣切り救済が介護職貧困層を生む

2009/02/05

介護離職の原因システムを改善せず人数だけで足りると考える愚作

 特養(特別養護老人ホーム)に勤務するマイミクのケアワーカー(=介護福祉士)の女の子が、介護現場の同僚達の間で最近、政治批判の話題が多いと言っていた。

「厚労省は、本気のケアワーカーや介護ヘルパーを軽視している。派遣切り問題の、責任逃れの行き当たりばったり政策で、『派遣失業者の介護業界への就職支援』をうちあげて、昨日まで介護のカの字さえ頭になかったフリーターに介護職をあっせんして上手くいくと考えている無能さ、無責任さに腹が立つ」……だそうだ。

 特別養護老人ホームやデイケアセンター・社会福祉施設に勤める介護・福祉関係の有資格者の多くが、厚労省の政策によって、ますます低賃金化に押し潰されて介護現場から離職…もしくは「介護職貧困層」多発が次の社会問題になるだろうと介護現場では見ているそう。

 このマイミクの子は20代後半で大学在学中に介護福祉士の資格を取って特養で働いている。一般的な特養やデイケアセンターはこういう有資格者の子達が「介護・人助け」を志して職場に入っているため、過酷な労働条件ながら介護士としての「根性」で助け合ってやっている。特養施設の仲間で介護関係のセミナーやグループワークに参加しモチベーションを上げたりして、ようやくやっていけてるそうだ。

 今でさえ、介護職の有効求人倍率はゆうに2倍以上。慢性的な人手不足。理由は介護福祉士のなり手がいないのではない。介護福祉士になってからの『過重労働+低賃金』で離職していく人達が多いため。介護職の離職率は20%以上と全産業平均を上回っている。もともと他人の為の重労働を厭わない介護士は、過重労働は何とか心意気で乗り越えられる。

 だが『低賃金』だけは、将来設計において重大な障害になり辞めざるを得ない人も多いそう。介護職に就いてみて「憧れて入ったがこの過酷な低賃金生活に将来はない」と不安を抱え、1年以内で辞めていく人も4割もいるそうだ。
 
 この点、『過重労働+一般的・もしくは高賃金=xだったら、まず介護職の離職がなくなるのは誰でも分る。「失業フリーター対策の公金≠、現、介護福祉士への給与待遇改善に回してやれば、将来の「介護職貧困層」問題に歯止めがかかるハズ!」というのが、この子の特養仲間での共通認識。

 何より「失業問題の場当たり対策で、介護職を人数だけ増やし中身を薄くしたら、一番救済されるべき介護される側の人に最終被害が行く!」という危険が、現厚労省の政策では透けて見えるそう。(=単純労働でさえ長続きせずブーブー文句言っている連中に介護のような精神的にも過酷な対人間の仕事が勤まるわけがない…らしい)

介護ボランティア・介護サポーター

 安部元総理が提唱し、財政負担も少なく地域コミュニティ振興にもってこいであり、厚労省も納得の上スタートさせた「介護ボランティア・介護サポーター制度」が、今、色あせている。

 この制度は65歳以上の生活に余裕のある人が介護ボランティアとして老人介護関係のボランティアをし、ボランティアだけだと善意の親切に甘えっぱなしという事で、ボランティアする度、ボランティアの介護保険にポイントを貯金でき、そのボランティア自身が介護の年齢になったら貯まったポイントを使えるようになる、という優れモノの話だった。

 しかし、この話は「ボランティアなのに介護保険にポイント(報酬)がつくのはおかしい!」というセコい横やりが入って、たらたらと話が伸びてしまった。(ボランティアポイントったって、年間最高5,000円程度のメシ代にしかならない超ハシタ金程度なのに)

 この制度が延び延びになっている所へ、今回の「失業者やフリーターの介護現場への斡旋プロジェクト」なんていう金ばかりかかって恐らくマイナスにしかはたらかない政策が立ち上がった。

 厚労省は(公金がほとんどかからず地域振興にもなる一挙両得の)介護ボランティア政策を忘れかけている?
 厚労省は金喰い無職救済に躍起になって大切な介護ボランティア制度を立ち消えにするかも知れない?

……これもマイミクさんの憂いている点である。

派遣切り連中への厚遇はマトモな介護福祉士を損させる

 厚労省の役人がポッとした思い付きで決めた「失業者やフリーターの介護・医療分野現場への斡旋プロジェクト」の内容は、派遣切りのプーや失業者(ホームレスも入るのか入らないのか分らないが)、とにかくそういう無職に介護職を斡旋し、無職も仕事見つかりハッピー、介護現場も人材が豊富になってハッピーという空虚な妄想に基づいたもの。

 ホームヘルパー(2級)養成講座(実習含む)の受講期間は2〜3か月程度。10〜20万円の費用がかかる。ここ数日で日本中の市区町村が、このホームヘルパー養成講座の費用を失業者や派遣切り無職が受けるなら全額負担しましょう≠ニ名乗りを上げている。軽すぎる。税金を使って良い事をしたふり、をしただけの話。

 ホームヘルパー2級養成講座の全額負担だけならまだいいが、より高度な技能を養成する6カ月訓練(ホームヘルパー1級)までも、庶民の税金だから湯水のように使え、と全額支援する自治体もあるそう。

 マイミクの子が持つ『介護福祉士』という介護福祉法に基づいた国家資格は、習得するには更生労働大臣の指定する2年ほどの訓練課程を修了し与えられる。大体の人が大学在学中やOLさんとかで「働き」ながら、昼は会社で夜はその福祉系の専修学校に通ったりを2年間も続けて、資格取得するそうだ。

 厚生労働省はこの資格を派遣切り連中らに無料で資格取得させ、しかも訓練期間中の2年間は生活費として月10万円の給付を受けさせる。マスコミが騒いだ程度で、なんで派遣切りの連中にこんな手厚いサービスをしてやる必要があるのか?

 本気で介護福祉士を目指してこの資格取得をしている人は、自腹を切って大切な時間を割きながら勉強している。そういう人達からまず支援してやるべきなのに、この制度は『仕事をしながら頑張っている人達は絶対に』恩恵にあずかれない。無職で生活保護などもらってブラブラして時間を持て余している連中しか助成されない仕組みになっている。

 個人的にも、介護業界の「リアル現場」は知らないが、このご時勢に派遣切りにあって、給与や待遇に四の五の言って次の仕事も探さずにブラブラしてる連中に、介護職の勉強をさせても、介護福祉士の資格取得後に、「利他の心」で働かなければならない介護の仕事など出来るわけないと思っている。

派遣切りプロジェクトのしわよせは2年後以降、介護福祉業界へ

 ただでやる学費も無駄だが、派遣切り難民に介護福祉士の資格取得を与えた2年後は想像が容易だ。介護福祉士資格を必要としている医療介護系人材派遣会社への、介護福祉士の「登録件数」だけは増えるだろう。しかし現職の人達でさえ喰いっぱぐれている現状を、今、何とかしなくては、2年後は更に「介護職貧困層」が深刻化する。

 介護という大変な仕事に就職するため、介護福祉士を『有料』で受験しようと頑張っている人達に、役人が「ちょっと席を空けろ」といって、ノー天気な派遣難民を割り込ませても、今、必死で勉強している子達は「文句やデモ」どころじゃないからとりあえず勉強を続けるだろう。

 今、介護関係の派遣会社の時給が下がっているという。

 製造業相手に擬装請負をやってきた派遣会社が、派遣切り問題で製造業から契約を打ち切られ、新たな派遣先として介護関係にターゲットを代え、新規参入の営業努力として、介護業界でも擬装請負代金のダンピング競争が始まっているからだそうだ。

 今、厚労省が通達した「失業者やフリーターの介護・医療分野現場への斡旋プロジェクト」のしわ寄せが、2年後以降に、自腹を切って会社勤めをしながらマジメに介護福祉士の勉強を(有料で)してきた人や、今、過酷な低賃金にあえぎながら特養やデイケアで頑張って仕事を続けている人に大波となって災いするであろう事は、妄想で終らないような気がする。

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