(敬天新聞6月号)
埼玉県鴻巣市に、日蓮宗を包括団体とする「池元院」(鴻巣市加美二丁目)という、昭和二十七年に県知事認証を受けた、そこそこの歴史を有する寺院がある。
寺院境内には其れ相当の墓地もあり、地域を中心に昔ながらの檀家を抱えているであろう、極々ありふれた寺院である。お堂にしても、手入れの行き届いた立派なもので、だからといって豪華すぎる事もなく、正に地域に根付いたお寺さんの佇まいを醸し出している。
しかし、そんな素朴なお寺が、先代住職の頃から突如として変貌したのである。先代住職の穐山光明は、宗教家というより実業家としての資質があったようだ。所謂、僧侶の御勤めや檀家との関りより、銭儲けの算段やビジネスに通じる仲間との交友を大切にしていたらしい。
平成十七年、その穐山光明のもとに、待ちに待ったビジネスチャンスが転がり込んできた。それが、宗教法人ならではの公益事業、霊園墓地事業である。
そもそも、民間私企業が霊園墓地を運営することは出来ない事から、販路拡大を目論む石材業者等が、宗教法人をあの手この手で口説き落とし、霊園墓地の事業者に据えるのが、霊園業界では半ば常態化し罷り通っている。即ち、宗教法人格の「名義貸し」行為が横行しているのだが、当然ながら名義貸し行為は禁止されており、発覚したならば事業資格を取消されることもある。
しかし、一旦、許認可を与えた行政は、違法造成や販売不振による負債発生等の問題が表面化しないうちは、積極的に動くことはしない。何故なら、看過出来ない問題が発生したことを認識した場合、その対処として販売停止・使用停止命令といった、何らかの是正措置をとらざるを得ないからだ。
その場合、事業者と役務契約(永代供養)を済ませた既存の購入者に、甚大な被害を与えることになる。例えば、霊園を使用禁止にするから墓を移せといった無理難題を、購入者に押付けることなど、実際は不可能だからだ。何より、名義貸しの実態を見抜けずに許認可を与えた、瑕疵責任にまで波及する恐れがあると考え、結局は監視強化には二の足を踏むのである。
行政は怠慢の言い訳に「宗教法人は嘘をつかないし、僧侶が違法行為に加担する筈などない」と、性善説に則した姿勢を崩さない。裏を返せば、宗教法人及び僧侶による犯罪行為が露呈した場合、行政には責任はなく寧ろ騙された被害者だと言い逃れしたいのであろう。
業者は斯様な事勿れ主義を見透かした上で、名義貸しは霊園業界の常識だとして、霊園墓地事業に参入しているのだ。さて、事業意欲旺盛な池元院住職(当時)の穐山光明の場合、業者に持ち掛けられた計画なのか、若しくはその逆か、何れにせよ事業者は宗教法人「池元院」であり、責任者は同法人代表役員である穐山光明であることに変わりはない。
起点がどうあれ、霊園墓地事業で「銭儲けをしよう」という思惑で一致した両者の仕事は、あれよあれよという間に進行していく。但し、霊園建設地の土地買収や造成工事の手配、完成後の墓地販売や管理、其処に至る必要書類の作成や申請といった実務を、経験のない穐山光明が主導してこなせる筈もない。
更に、小さな町で檀家を抱えるだけの池元院が、霊園墓地開発に必要な資金を留保していたとは考えにくい。何せ、銭が必要だからといって、境内の土地・建物、寺所有の宝物等を、売却ないしは担保提供するような罰当たりな愚行は犯せる筈もなく、必要な資金は現金での保有が大前提なのである。
結局は、霊園墓地事業のノウハウに長けた業者が全ての手続きを指揮し、ついでに資金提供(立替)も行なったと見るのが妥当であろう。穐山光明は、事の全てを黙って業者に任せ、指示に従がっておけば、何時の間にやら霊園経営僧侶に祭り上げてくれるのだから、呑気な立場である。それでいて、お金がたんまりと入ってくるのだら、銭にもならない檀家との付き合いや、宗教家としての日々の御勤めなんぞ、馬鹿らしく思えたに違いなかろう。
さて、立派な霊園経営事業者となった池元院は、先代住職の事業路線を継承したまま、当代住職である穐山芳敬へと引き継がれている。しかし、最近になって、由々しき問題が発覚したのである。それが、商標登録の無断使用である。
そもそも、霊園墓地事業を始める際に、池元院は同事業を行なうが為に必要な、法人規則の変更承認申請をしたのであるが、その際の事業名称は「北本霊園」としていた。それ以降も、北本霊園の名称を一貫して使用していたのだが、造成工事及び建物建設工事の終了間際に、唐突に霊園名称の変更を届け出たのである。
変更後の名称は「グレイブガーデン北本」である。このグレイブガーデンを冠する霊園は、埼玉県内に複数存在するが、事業主体となっている宗教法人は、宗派も違えば縁も所縁もない全くの別法人である。其々の宗教法人が主体となって経営する霊園名称が、偶然にも一致したということだが、常識からしてそんな偶然は有り得ない。
真相は、グレイブガーデンを冠する霊園には、事実上の事業者が潜んでいるということだ。宗教法人は名義貸しのみが役目であり、真の霊園墓地事業者は無資格者の民間業者であることを、図らずも露呈した事になる。
しかし、この事は端から折込済みであり、新たに発覚したという問題は別件である。なんと、このグレイブガーデンという名称が、平成十一年に第三者によって、「墓地又は納骨堂の提供」を役務区分として、既に商標登録が済まされていたのである。
つまりは、埼玉県内にグレイブガーデンを冠した霊園墓地を展開する業者は、知ってか知らずかは不明だが、不当に商標を使用し続けていたのだ。尤も、業者の強制による名称であったにしろ、表向きは事業主体である池元院(他の宗教法人も)が、商標権者の権利を毀損していた事は、どうあっても逃れられないし、責任を負うのは勿論のこと池元院である。
グレイブガーデンの商標権者が、偶然にも不当使用を発見し説明を求めると、営業用のチラシ宣材やホームページからは同名称を削除し、霊園墓地の設置看板も撤去したという。だが、その後は明確な謝罪がないまま果たすべき責任さえも有耶無耶にしているという。
今回、商標不正使用という意外な行為から、池元院が本紙の目に触れた訳だが、お陰で宗教法人に根付く問題を、改めて検証する機会が得られた。それにしても、本紙が悪徳坊主を懲らしめると、決って日蓮宗系の坊主である。
972区画ある北本霊園。(北本市深井8-244)これで一体、いくら儲けたの?
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